筆者:田中 良(スポーツ科学部講師)
1.体力?運動能力がないわけではない、いまの子どもたち
毎年10月、「スポーツの日」に合わせて前年に行われた「体力?運動能力調査」の結果が、スポーツ庁から発表されます。誰もが学校で経験した体力テストの結果です。昔と比べて随分と子どもの体力?運動能力は下がった…と思われがちですが、実は違います。大規模な行動制限が掛かったコロナ禍までは継続的な上昇が確認されています(図1)。そんな体力?運動能力とは異なって、歯止めが掛からなくなっている子どもの健康課題があります。
2.いまの子どもたちが抱える健康課題
子どもにどんな健康課題があるかは、学校で実施されている健康診断のデータが教えてくれます。図2には、学校健康診断で把握された11歳と14歳における健康課題の割合を示しました。「う歯(虫歯)」が明らかに改善しているデータからは、健康教育を含む情報伝達や情報発信が重要であることがわかります。このグラフで明らかに増加しているのは「裸眼視力1.0未満」の問題で、過去最多となっています。クラスの半分くらいの子どもは、視力に問題を抱えたまま学校生活を送っているのです。
では、なぜ目は悪くなってしまうのでしょうか? 目の大敵となるのは、「近くを見る作業をしすぎる」ことです。具体的には、読書や手元での工作、ノートへのメモ、スマホの利用等です。また、外よりも光の量が少ない部屋の中で近くを見る作業をすることは、目によくありません。「読書や工作」と「スマホ」はどちらも近くを見る作業ですが、とりわけいつでもどこでも使えるスマホの方が利用時間が長いので、“目に悪いもの”として知られています。
もちろん、まったく電子メディアを使わないわけにはいきません。私もこの原稿をパソコンで書いていますし、インターネットがなければ、みなさんにこの原稿を読んでもらうことも叶いません。ただ、使いすぎや心の奪われすぎ(依存傾向)は、避けたいところです。子どもたちに「目が悪くなる子どもが増えているよー!」や「目が悪くなる理由は、近くを見る作業のしすぎですよー!」や「スマホの使いすぎには気をつけてー!」と健康に関する知識や情報を伝えるのはすごく重要です。なので、きちんと機会も設けられています。それが「保健授業」です。
3.保健授業が持つ可能性!
2023年11月に、大阪府公立中学校の保健体育の先生とコラボして、「自分のスマホ依存度を知る保健授業」を考案し、実施しました(田中ほか、2024)。授業では、インターネット依存チャートを用いて、中学生に自分自身の依存度を知ってもらいました(図3、4)。授業の効果を検証したところ、授業後に依存度が改善する生徒が確認され、改善した生徒は必要に応じて電子メディアを利用するようになり、睡眠時間も確保するようになりました。わずか50分の保健授業でも、内容に納得した生徒は生活を変えるのです。
保健は、体育と違って子どもの「できた!」「変わった!」瞬間に立ち会えないことが多いですが、それでもやりがいや手応えを感じられる授業です。みなさんと素敵な保健授業を研究できる日を心待ちにしています。
【参考文献】
子どものからだと心?連絡会議編(2023)子どものからだと心白書2023、ブックハウスエイチディ
スポーツ庁、体力?運動能力調査報告書
田中良、勝崎由美、滝沢洋平、谷本和昭(2024)中学生におけるネット依存チャートを用いた保健授業実践、日本幼少児健康教育学会誌、印刷中
文部科学省、学校保健統計調査報告書
田中 良(スポーツ科学部講師)
学校保健学、発育発達学を専門領域として保育?教育現場に出向いて研究活動を進めつつ、2017年には日本スポーツ協会公認コーチ3(ハンドボール)指導者資格を取得。3児の父。
関連サイト
○田中良講師
○大体大先生リレーコラム「本物を学ぼう」